Prologue


「あぁ?」
 〝自由〟は、よくわからない気色悪く、不可思議な空間に居た。
 その空間は全方位が、見ていて気分の悪くなりそうな、不気味な色で覆われている。そして不気味な色合いの背景に支配された空間は、他に何もなかった。
 地面も、壁も、天井も、それ以外の物も、本当に一切の物が存在しなかった。
 そんな奇妙な空間に置かれた自由の前に、突如、一人の人物が現れる。
 ツナギの上から研究衣を羽織るという、おかしな格好をした人物は、音も、気配も、何の前触れも無く、本当に突然そこに現れた。
「自由さん、久しぶり。元気にしてた?いきなりな話で申し訳ないんだけど、自由さんにお願いしたい事があるんだ」
 突然現れたその人物は、自由に向けて唐突に話し始める。
「一から全部を話すと長くなるから、要点だけ言うね。〝私達の世界〟に、〝別世界の連中〟が殴り込みを企ててる。ふざけた話だと思うかもしれないけど、これは確かな事なんだ。で、そんな面白くない話が判明した以上、ただボケッと待ってる訳にはいかない」
 その人物は奇妙な空間で、静かに発しながら背を向ける。
 かと思いきや、次の瞬間に白衣を翻しながらくるりと身を回転させ、自由の方を向いて、人差し指を突き立てた。
「そう、先手を打つ。自由さんには、先んじてその〝別世界〟に行ってもらいたい。そこで、その面白くない事を企ててる奴らを、そして企みそのものを潰して欲しいんだ」
 薄気味悪い笑みを浮かべながら、その人物は話を続ける。
「ただ困った話、〝連中〟が具体的どう出るかはまだ不明瞭なんだ。こっちでも色々調べてるんだけど、尻尾はまだ掴めてない。だから最初、自由さんにはその世界の探索から始めてもらう事になるかな。向こうも広い世界だし、時間もまだ無いわけじゃない。自身で探索して、その眼で見つつ理解してもらった方がいいと思うしね」
 人物は一人で勝手に合点がいったように頷く。
「その世界で活動を始めるのに適当な場所は、目星を付けてある。自由さんにはそこにまず降り立ってもらう。心配しないで、自由さん一人じゃない。周辺に居る方の中から、幾らかの人等を一緒に送り込ませてもらう。あ、選抜の基準は私の好みも入ってるけど。当面を凌ぐ分の必要品も一緒だよ。その人たちと一緒に、まずは色々探ってみて。具体的に何をすればいいか、糸口はその間に見えてくるはずだから。あ、私もそろそろ作業に戻らないと。じゃあ、頃合いを見てまた連絡させてもらうよ。くれぐれもお体には気をつけて」
 漠然とし過ぎていて全く要領の得ない、説明になっていない説明を終えた人物は、笑顔で別れの挨拶を述べる。
 そして後ろ向きに歩き出し、不安定な空間の背景に、水に溶け込むように姿を消した。
 自由自身の意識も遠のいていく――



― Heterogeneous ―


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